東京高等裁判所 昭和52年(ネ)1593号 判決
被控訴人は、控訴人が大和久の無権代理による本件手形振出行為を追認したと主張するが、右追認の事実は本件全証拠によるもこれを認めがたい。すなわち、そもそも、無権代理行為の追認とは、無効な無権代理行為の存在する場合に本人が無権代理行為の存在すること及びその無効なることを知りながら、右無権代理行為の効果を有効に自己に帰属させる意図のもとになす一箇の処分的法律行為である。もし本人が該無権代理行為を有効なるものと考えて、外形的に追認と見られる行為をなしたとしても、その場合は右行為は単なる確認の意味を持つに過ぎず、あらたな処分行為としての意味を持たないから追認にはあたらない。この見地に立って本件を見るのに、≪証拠≫を総合すると、昭和四八年一二年月ころ控訴人代表者長谷川は被控訴人から、被控訴人が大和久を通じて控訴人振出の本件手形を取得し所持している旨の連絡を受け、驚いて大和久を追及したところ、大和久が長谷川に無断で自分が本件手形を振出したもので、責任は自分にあると認めたので、翌年一月八日長谷川、大和久、岡本らが被控訴人方に集って善後策を協議したこと、そのさい大和久が自分に責任があるので、自分が被控訴人に対し手形金額の一〇〇〇万円を支払う旨を申し述べたこと、同年二月三日被控訴人方で大和久が全文(作成名義人の記名部分を含め)を書き上げた借用証(昭和四九年二月三日に大和久が被控訴人から金一〇〇〇万円を借り受け、これを昭和四九年三月三一日、同年四月三〇日、同年五月三一日、同年六月三〇日、同年七月三一日の五回に各二〇〇万円ずつ返済する旨及び風戸栄雄、長谷川進、岡本卓司の三名が連帯保証する旨の被控訴人宛借用証)に、大和久、長谷川、岡本がそれぞれ調印し、風戸については大和久が風戸から預って来た同人の印を押捺してこれを完成し、これを被控訴人に差入れ、被控訴人がこれを受領した事実を認めることができる。しかし以上の事実からは、せいぜい大和久が本件手形金支払いにつき責任を負うべきことを前提として、大和久と被控訴人との間で右手形金債権を目的として準消費貸借が結ばれ、長谷川、(右借用証に掲げられた長谷川進の名義が控訴人会社を意味すると解すべき事情は認められない。)岡本、風戸がその連帯保証人となったことが認められるにとどまり、これによって控訴人が前述の意味における追認をなしたとの事実までを認めることは到底できない。なお、≪証拠≫中に、控訴人代表者が被控訴人に対し、本件手形について控訴人にも事実上の責任のあることを認めていた旨、控訴人代表者が被控訴人に対し本件手形の呈示を待ってもらいたいと述べた旨、あるいは控訴人代表者が植木等による代物弁済の申出を被控訴人に対してなした旨の部分があるが、これらの事実をもってしても、ただちにこれを追認と評価し、もしくは追認のあった事実を推認するに足りないことはいうまでもなく、他に追認のあった事実を認めるに足りる証拠はない。
(石川 高木 清野)